3月3日から6日まで開催された「FIN/SUM 2026」の最終日、「金融に『断層』は来るか!? 〜次の10年を決めるテクノロジーと政策の分岐点」と題したパネルセッションが行われた。
自民党の村井英樹衆議院議員、グローシップ・パートナーズとオーナーシップで代表取締役を務める松井晴彦氏、Progmat代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏、フィナンシェ代表取締役CEOの國光宏尚氏という官・民のフロントランナーが集結。日本経済新聞社 編集 金融・市場ユニット金融部長の上杉素直氏がモデレーターを務め、次の10年で起きる金融の構造変化について議論が交わされた。
1100兆円が動き出す「断層」
松井氏は、大手外資系コンサルティングファームの代表を歴任し、現在はセキュリティ・トークン(ST、デジタル証券)のプラットフォームなどを提供している。その立場から、個人の資産形成に焦点を当てた。
〈グローシップ・パートナーズ、オーナーシップ代表取締役の松井晴彦氏〉
日本の個人金融資産は約2200兆円にのぼるが、そのうちおよそ半分にあたる1100兆円が預金として滞留している。この巨大な資金が投資へと動き出す瞬間に「金融の断層」が生まれると指摘した。
さらに、開催中のワールド・ベースボール・クラシックを引き合いに、ファンがスポーツチームやイベントを応援するように、「好き」や「共感」を起点に資産を購入できる仕組みがデジタル技術によって生まれつつあると説明。魅力的な商品が登場すれば、「貯蓄から投資」への流れは一気に加速する可能性があるとの見方を示した。
また、Web3という言葉については専門家向けの概念であり、一般の消費者や投資家が意識するものではないと指摘。重要なのは技術の名称ではなく、魅力的な商品やサービスが登場し、日常の中で自然に利用されることだとの認識を示した。
これに対し、トークン発行プラットフォーム「FiNANCiE」を運営する國光氏は、よりグローバルな視点から金融の変化を捉えた。
〈フィナンシェ代表取締役CEOの國光宏尚氏〉
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産を企業の財務戦略に組み込むDAT(デジタルアセットトレジャリー)企業の登場を引き合いに、既存金融とブロックチェーンやWeb3の融合が進み、あらゆる資産がトークン化されるフェーズに入っているとの見方を示した。
「ガードレール」はあっても…
議論は終盤、日本がこうした変化の中で国際競争力を確立できるのかという点に移った。
STやステーブルコイン、NFTなどデジタルアセットの共通基盤を手がける齊藤氏は、事業者として実務上の切実な課題を指摘。世界との競争をレーシングレースにたとえて説明した。
齊藤氏は、日本は立派なガードレール(金融規制)を整備するスピードは「世界トップクラス」だが、「タイヤ交換に3年かかるような『燃費の悪い車』を渡されている」と表現。トークン化の普及を阻んでいるのは民法や会社法、個人情報保護法など周辺制度との整合性確保に時間がかかることだと指摘し、その結果、イノベーションのスピードが鈍っているとの問題意識を示した。
そのうえで、政府が認めたブロックチェーン上では、トークンの移転をそのまま権利移転として認める枠組みを設ける「トークン化法」の整備が必要だと指摘。制度設計をシンプルにでき、日本も資産トークン化をめぐる世界的な競争の中でスピード感を持って走れるようになると説明した。
これに対し村井氏は、政治の役割は適切なガードレールを迅速に整備することだとの認識を示したうえで、齊藤氏が指摘したような周辺制度との整合性の調整に時間がかかる現状にも理解を示した。そのうえで、複数の省庁にまたがる制度調整をいち早く進めることこそ政治の重要な責務だと述べた。
〈自民党の村井英樹衆議院議員〉
ガラパゴス化を避けるために問われる選択
齊藤氏は、日本国債のトークン化や分散型金融(DeFi)の活用を進める上で、採用するブロックチェーンの種類が極めて重要になると指摘。コンソーシアム型の閉じたネットワークではなく、「パブリックチェーンしかない」と明言した。
その理由として、資産のトークン化はすでに世界規模で進み始めており、日本だけが独自仕様のインフラを採用すれば市場が「ガラパゴス化」しかねないと指摘。世界中の投資家が24時間365日アクセスできる共通基盤を使ってこそ、日本のアセットはグローバル市場で競争力を持てると強調した。
〈Progmat代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏〉
続けて、そのためには実証や事例を積み重ね、制度整備につながる「立法事実」を形成していくことが重要だと語った。
|文・写真:橋本祐樹


